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よくある質問(FAQ)

 

役所員の謝罪要求と公務執行妨害罪?

 

公務執行妨害罪の成否が争われた事件について解説します。

公務執行妨害罪は、公務員に対する行為が問題にされますが、それは、公務の執行に関係することが前提とされます。

 

今回は、これが争われた東京高裁平成27年7月7日判決の紹介です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.29

事案の概要

被告人は、生活保護の手続をする目的で、区役所の保護課を訪れました。

その際、担当の係長に暴言。

これを見た別の係長は、このような事態を放置すると、職員の萎縮により、生活保護の適正な執行ができなくなってしまうと考えました。

直接、被告人の担当ではないものの、保護課として、この問題を是正しようと、被告人に対し、発言の問題点を指摘、謝罪を求めました。

被告人は、これを無視して移動。

係長を含めて10名近くの職員が被告人を追いかけ、更に謝罪要求をしました。

これに対し、被告人は係長の肩を押しました。係長は転倒。

 

 

被告人側は、公務執行妨害罪の成立を争いました。

係長によるの謝罪を求める行為は、被保護者の意に反して強制することが許されない生活保護法における指導や指示には該当しないので、適法な職務の執行とはいえないと主張した。

一審は、公務執行妨害罪の成立を認定。

被告人側が控訴。


 

裁判所の判断

結論として、控訴棄却。


被害者ともいえる係長は、保護課保護第6係長の職にあるところ、生活保護世帯に係る法外援護事務の調査及び調整に関することという分掌事務に直接該当するものに限られず、当該事務を円滑に遂行するため、これを阻害する要因を排除ないし是正することも、相当な範囲にとどまる限り、本来の職務に付随するものとして、その適正な職務に含まれると認定。

担当外でも、職務に含まれるという考えです。

 

本件犯行当日の被告人の保護課職員に対する振る舞いは、係長が懸念するとおり、保護課職員を委縮させるなどして、保護の適正な執行を阻害するおそれのあるものであったと認定。

被告人の担当については、被告人を直接担当するのは保護第1係であって、係長の所属する保護第6係ではないが、各係の担当は区内部の事務処理上の分掌にとどまる上、上記のような振る舞いを放置しておけば、他の係の生活保護受給者の振る舞いにも影響しかねないことからすると、同じ保護課に所属する保護第6係の分掌事務をも阻害しかねない事態であったと認められる、とフォロー。

 

このような点から、これを是正するため、被告人に対し、その言動の問題点を指摘し、謝罪を求めた係長の行動は、係長の本来的な職務に付随するものとして、法令上の根拠を有すると認められるとしています。

 

また、係長らの行為にやや威圧的な面があったことは否めないものの、職員に対しこれまで恫喝的な態度をとってきた被告人を注意、説得する必要があったことに鑑みると、必要性、相当性を欠くものとまでは認められない、ともしています。

 


公務執行妨害罪とは?

公務執行妨害罪が成立するためには、対象の公務員の行動が、「職務」にあたる必要があります。

そのような保護に値する職務を守るのが、本罪の趣旨です。


本件では、謝罪を求める係長の行動が、公務執行妨害罪の「職務」に当たるのかが問題になりました。

また、当たるとした場合、その職務執行は適法かについても問題とされました。

 

公務執行妨害罪の「職務」とは、最高裁判決によれば「ひろく公務員が取り扱う各種各様の事務の全てが含まれる」とされています。

ただ、公務員の抽象的権限内であることは必要です。

過去の裁判例では、巡査による説諭も抽象的権限内の行為だとされています。

 

本判決では、謝罪を求めた行動が、職務行為になるかどうかという点よりも、本来的な職務に付随するものだと認定しています。

公務員が本来的に担当する事務そのものではなくとも、それに付随する事務に際して暴行や脅迫を受けたような場合でも公務執行妨害罪が成立するという結論です。

この「付随」という言葉は、多くの裁判例でも出てきます。

 

付随的な職務の認定?

ただ、何でもかんでも付随という言葉で片付けられてしまうのも問題です。

公務執行妨害罪の職務行為性を認定するには、そもそもの本来的職務の内容をしっかりと認定すべきです。

そして、まずそれがその公務員の抽象的権限内に属すると確認するべきでしょう。

そのうえで、その本来的職務をするためには、一定の関係ある業務も必要だったり、有用だったりするため保護すべきなどだとして、一定の範囲で付随的行為を認定すべきでしょう。

 

本件では、かねてより問題のある生活保護受給者に対しては、保護課全体で対応していたことなどもあり、被告人に対する生活保護の適正な執行が、保護課全体による一体としての職務と認定しているようです。

そのため、係長が別の担当であっても、その抽象的権限内に属するものと考えられます。

その本来的な職務に関し、被告人の言動に対する謝罪を求める行動は、付随する行為と認定したように読めます。

 

職務執行は適法?

では、被告人に足しい、謝罪を求める行為が職務行為に当たるとして、この職務執行は適法だったのでしょうか。

今回の判決でも、職務執行の態様は、公務執行妨害罪で保護するに値するものと評価しています。その必要性や相当性を認定しています。

本件では、係長らの行為が、10名近くの職員が追いかけての謝罪要求であるなどという点から、「やや威圧的な面」があるとも指摘されています。

しかし、それ以上に、被告人の恫喝的な態度と比較して生活保護の適正な執行を優先し、謝罪要求が許容されないとはいえないと判断しています。

事案の概要をみても、公務執行妨害罪の成立はやむを得ないように感じます。

 

 

 

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