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よくある質問(FAQ)

 

暴行罪で少年院送致になる?

通常、刑事事件では、罪の重さと量刑が比例します。

重い罪を犯した方が、重い量刑になります。

ただ、少年事件については、必ずしもそうなりません。

軽い非行でも、少年院送致となることもあります。

今回、このような結果が高裁でも指示された東京高等裁判所令和元年7月29日決定を紹介します。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.29

 

事案の概要

非行態様自体は、当時18歳の少年が、交際相手の女性が仮眠中に、首をつかんで無理やり起こし、あごを手でつかむという暴行事件でした。

過去に似たような非行で保護観察処分を受けていました。

家庭裁判所は、本件非行について、その態様自体から、相手に配慮することなく暴力を用いて、自己の要求を通そうとするのは、自己本位な態度であるとしました。

前回の保護観察処分後も、母親に対する暴力的な言動があったという点、母親や交際相手のような親密な相手に対して依存して自己の過大な期待を押し付ける点、それが叶わないと暴力的な言動に出るという傾向が顕著な点、が指摘されていました。

さらに、前回の処分後にも、このような点は悪化していると認定。

母親は耐えられずに家を出ました。

 

保護観察所や福祉担当者の指導に対しても、少年が指導を受け入れる姿勢を見せなかったことなどを指摘のうえ、少年の要保謹性は極めて高いと判断。

第1種少年院に送致しました。

 

これに対し、少年が抗告を申し立て。原決定の処分は著しく不当であると主張しました。

 

高等裁判所の判断

抗告棄却。

原審の判断について、母親が耐えきれず少年のもとを離れたことから、交際相手に代償的な役割を求めて依存を深め、結局は自己の思いどおりにならない事態を迎えて暴力的な言動に及んだものと理解されるとしました。

鑑別結果通知書及び少年調査票によれば、少年は、母親や交際相手など親密な相手に対しては幼児的なまでに一方的に依存し、自己の過大な期待を押し付け、それがかなわないとなると一転して暴力的な言動に出るという傾向が顕著であり、相手の心情を理解することなく自己の主張にこだわって修正が利きにくく、物事を被害的に受け止めがちであり、根拠のない自信から非現実的な希望にしがみつきやすいなどの資質上の問題が認められるところ、その問題性は前件の後に強まっているとしていました。

少年は、本件審判においても、客観的に自己を直視し、教育的な働きかけを受け入れる姿勢は全く認められず、母親は、少年への対応に精神的に疲弊し、社会復帰後の少年を1人で受け入れることは無理があるとの考えであり、父親も現状のままで少年を受け入れることは困難であるとの意向を示していました。

このような点から、少年の問題性は根深く深刻であり、要保護性が極めて高いから、本件が比較的軽微な事案であることを考慮しても、少年を少年院に収容し、その改善更生を図ることが必要不可欠であるとしました。


高等裁判所でも、要保護性を基礎づける事実の認定やその評価に誤りはなく、それに基づく処分の決定も裁量の範囲を著しく逸脱したものとは認められず、相当であるとして、原審を支持。

 

付添人の主張に対する判断は?

付添人は、

原決定は、少年の処分を決定するにあたり、もっぱら、前件の内容や、少年と母親との間のトラブルの内容を考慮しており、本件非行の内容を十分に検討していない、

原決定は、少年の言い分と母親や保護司の言い分とが対立する事項について、少年の弁解を十分に聞き入れず、それが虚偽や言い訳であるとして排斥し、少年に不利な事実を前提として処分を決定している、

少年は、本件非行の直前に精神科病院で躁うつ病の可能性が高いとの診断を受けたというのに、原決定では、少年の精神疾患の有無等について十分に考慮されていない、

などと指摘して、原決定の処分が著しく不当であると主張していました。


しかしながら、原決定は、本件非行の態様自体から、相手に配慮することなく暴行を用いてまで自己の要求を押し通そうとする自分本位な態度がうかがわれると指摘した上、本件非行の原因を分析する中で、前件の非行内容やその後の少年の行動の問題点などを検討しているのであり、本件非行の内容を十分に検討した上で少年に対する保護処分を決定していることが明らかであるとしました。

また、前件で保護観察処分を受けてから本件非行に至るまでの少年の行動は、少年に対する社会内処遇が困難であることを示す事情として重要であり、原決定がこの点を考慮したのは相当であるともしています。

原裁判官は審判において、これらの事項について、いずれも少年に内容を質して、その言い分を聞いている上、前件で保護観察処分を受けた後の少年の母親に対する言動や、保護観察所に対する対応などについては、信用できる少年調査票や保護観察状況等報告書の内容を含む一件記録から少年の言動等を認定した原決定に誤りはないとしました。

 

精神障害の点についても、少年鑑別所収容中の少年を診察した精神科医師作成の診断票が添付された鑑別結果通知書をはじめ、少年の精神障害の有無や資質上の問題点については十分な調査がなされており、原決定は、それらを踏まえて少年の性格特性や資質上の問題点を考慮して少年に対する保護処分を決定しているから、付添人の主張は理由がないとして排斥しました。

そして、少年の問題性の根深さ等に鑑みると、少年を少年院に収容することが必要であるというべきであり、付添人が指摘する事情を考慮しても、少年を第1種少年院に送致した原決定の処分が著しく不当であるとはいえないと結論づけ、抗告棄却としました。

 

非行の重さと処分の重さ

本件非行は、暴行罪でした。

犯罪の中では、比較的軽い類型です。

相手も、交際相手の女性ということで、成人の事件であれば実刑にはなりにくい犯罪です。

しかし、少年事件の場合には、非行の重さと処分の重さが、成人よりもずれることは多いです。

わかりやすくいえば、軽い罪でも少年院ということはよくあるのです。

 

通常、軽い非行では、一過性のものが多いのに対し、重大な非行を犯した少年は要保護性の程度も高いことが多いです。

このような場合、非行の重さと処分の重さが一致することになります。

しかし、非行事実自体は軽くても、非行に至る経緯や家庭環境等から、要保護性が高いと判断されることもあります。

このような場合には、重い処分がされることとなります。

本件でも、暴行という比較的軽めの非行であっても、過去に保護観察処分を受けていることや、その後の生活状況でも改善されていないことから、要保護性が高いと判断されたものです。

軽いと思われていた非行でも、このように経緯に問題がある場合には、予期せぬ重い処分がされることもありますので、ご注意ください。

 

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