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医師による安楽死事件は?

医師による安楽死事件が話題になることも多いので解説しておきます。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.29

動画での解説はこちら

 

医師による安楽死事件

医師による安楽死事件を取り上げます。

医師による安楽死事件は今後、高齢化社会などで増える可能性も高いです。

情報整理という趣旨で、過去の日本での事件を振り返っておきます。

 

日本での安楽死と法律

日本では、安楽死を認めるような法律はありません。

過去に、裁判で安楽死が認められるのかどうか争われた際に、地方裁判所で提示された4つの要件のようなものがあります。

この4ポイントというのが、


・患者本人の同意、意思表示

・その症状が回復不能である

・その症状が耐え難いような激しい苦痛という程度

・苦痛を避ける方法が他にない。

というもの。

 

このポイントの使われ方としては、この4つを満たしていないので、日本の法律で殺人罪が適用されます、という言い方です。


満たしているから合法、というい言い方ではなく、満たしていないから殺人罪、という使われ方をしています。

 

 

諸外国の安楽死制度

日本と違い、諸外国ではを安楽死を認める国もあります。

そういった国では、この4つのポイントと同じような要件が提示されていることが多いです。

例えば、スイスでは自殺の幇助制度が認められています。

弁護士も関与したりして、要件を満たしているときには自殺幇助が認められています。

また、オランダでは、弁護士の関与すら不要で積極的な安楽死まで認められています。

健康保険も使えるという制度です。

 

このように、安楽死への対応は、国によって違います。

日本でも、これを認めるか議論を進めようかという動きはあったものの、そのまま止まってしまっているのが実情です。

 

医師による安楽死事件

日本で医師による安楽死が事件として取り上げられたのは結構昔の時期です。

1991年の東海大学付属病院事件。

1996年の京北病院事件。

1998年の川崎協同病院事件。

書籍などでは、このあたりが紹介されています。

2020年にも新たな事件が起きましたが、それまでの間、大きく議論される事件はありませんでした。

 

東海大学附属病院事件

神奈川県央地域にあり、ジン法律事務所弁護士法人も位置的に近い病院です。

こちらの事件に関して、ノンフィクションなどの本を読むと、遺族からの強い要求があり、担当医がどんどん代わり、最後の担当医師が、行為に及んだという事件です。

やったこととしては塩化カリウムを静脈に注射。

他の医師からのコメントでも、これは問題になる行為であるという意見が多い行為でした。

この注射によって安楽死、殺人罪に問われた事件です。

 

こちらの件では、そもそもガンの告知がされていませんでした。

本人の意識もない状態で、本人が承諾できるような話ではありませんでした。

結論としては殺人罪が認定。

懲役2年、執行猶予2年がついています。

 

この事件に関する文献を読むと、遺族からの要求がかなり強い、外に出ていても電話がかかってきたりして、医者も精神的に参ってしまっているような状況下でおこなわれた行為のような印象を受けます。

しかし、法廷では、遺族は全く違う証言をしました。依頼等はしていないという主張です。

事件直後の言動を見ると、遺族側の証言の信憑性に疑問もあるのですが、裁判所の認定としては有罪判決となりました。

 

京北病院事件

患者の治療を行っていて、苦しんでいたため、最後に、筋弛緩剤を投与したという事件です。

捜査の結果、不起訴になった事件。

筋弛緩剤の投与と、死亡との因果関係が犯罪立証のレベルまでは認められないと判断されたものと思われます。

患者の症状から、そのままでも死亡した可能性が高く、筋弛緩剤がどの程度、作用したものなのか、死亡を早めたのか医学的に不明だというタイミングだったと思われます。

マスコミで報道されたものの不起訴という結論。

 

 

川崎協同病院事件

1998年の川崎協同病院事件。

終末期の患者。

こちらも、筋弛緩剤を投与し、その後、患者は亡くなったという事件です。

4年後に殺人罪で起訴された事件です。

結論としては、こちらも有罪判決が出ています。

地方裁判所では、懲役3年執行猶予5年。

高等裁判所の段階で、懲役1年6月、執行猶予3年。

医師は、最高裁まで争っています。

医師による安楽死事件で、初めて最高裁まで争ったという事件ですが、有罪判決は覆りませんでした。

 

遺族への説明や、同意などが争点とされています。

医師は、『私のしたことは殺人ですか』という本まで出版しています。

医師による安楽死について議論を進めようとしたように見えますが、それ以降、進んでいないのが実情です。

 

 

これら3つの事件の整理や海外の安楽死事情については、『安楽死を遂げるまで』という本に、詳しく書かれたりしています。

遺族や、医師に対しても取材しているので、すごい一冊です。

 

 

安楽死に関する議論

安楽死についての議論は、ときどき出てきます。

2020年にも事件があったり、海外で認めるという報道がされたりしています。

議論をする際には、4つのポイントのどの話に関して議論しているのかを整理した方が良いです。

・患者本人の同意、意思表示

・その症状が回復不能である

・その症状が耐え難いような激しい苦痛という程度

・苦痛を避ける方法が他にない。

議論をみると、話が噛み合っていないと感じることがあります。

これは、4ポイントの違う話をしているから。

医学の進歩で治る可能性あるから認めるべきではない、本人の意思表示ができないときに家族が決めて良いのか、という点。これらは、違うポイントの話です。

これらを混ぜてしまうと、何の話をしているのかわかりにくくなりますので、ポイントごとに頭を整理した方が良いでしょう。

 

 

 

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