
よくある質問
よくある質問(FAQ)
営利目的覚せい剤輸入罪の故意は?
覚せい剤輸入の故意が争われた裁判例です。
覚せい剤事件については、その対象物の認識が問題なることも多いです。
今回も、荷物の中身が覚せい剤とは伝えられておらず、金塊と言われて運んだ被告人の故意が争われた事件です。
大阪高裁平成30年5月25日判決の紹介です。
事案の概要
香港在住の外国人が被告人。
被告人は、関西国際空港において、同空港関係作業員らに、覚せい剤が隠匿されたスーツケースを航空機から搬出させ、覚せい剤を本邦に輸入したとし、営利目的覚せい剤輸入罪で起訴されました。
裁判では、被告人の故意が争われました。
被告人は、本件スーツケースに隠匿されていたものを金塊であると認識していた旨、主張しました。
被告人が、このような行動に出た経緯が問題となりました。
被告人は、インターネットを通じて「荷物を運ぶ仕事」を探し、面識のない人物から日本行きの仕事を依頼されました。被告人は、「何を日本に持って行くの?」と尋ねたところ、 「豚肉」と言われました。
被告人は「豚肉」の意味は分からなかったものの「豚肉を運ぶ仕事」が違法なものである可能性が高いことは最初から認識していたと供述。
その後、トークアプリ経由で、日本の旅の担当者と称する人物から、報酬4万香港ドル(当時は55万8800円相当)で本
件スーツケースを日本へ運搬するという依頼がありました。
被告人は、過去、粉ミルクや漢方薬を中国本土へ運ぶ仕事をしたことがありました。その際の報酬は、1回あたり300ないし800香港ドル程度。今回の報酬額は、当時働いていた携帯電話販売員としての月収の4倍近い金額でした。
その後、被告人は、他の人物から、スーツケースの中身について、税金逃れのための金塊だと説明されました。
被告人は、中身を確認しませんでした。
地方裁判所は、被告人が中身を金塊と認識していた可能性を否定できないとして、故意を否定しました。
検察官が控訴。
裁判所の判断
破棄自判、有罪。
犯罪組織に関わる第三者が、面識もない他人に高額の報酬を支払ってまで、秘密裏に日本に運び込もうとする物で、スーツケース内に隠匿し得る大きさないし量であって、持込みに成功した場合、それを依頼した者に相応のメリットがあるものとして想起されるのは、まずは覚せい剤等の違法薬物であると指摘。
被告人の場合も例外ではなく、これにより、特段の事情がない限り、被告人において、本件隠匿物は、覚せい剤等であるかもしれないとの認識を有していたとの一応の推認が働くとしました。
本件覚せい剤は、本件スーツケースの上蓋に接着された内張りの下に、これを剥がして解体しないと分からないような態様で隠匿されており、被告人も、その箇所に、そのままでは税関を通過できないもの(それが金塊か違法薬物かはともかくとして)が隠匿されていることは認識していたとしています。
金塊との説明を受けた点について、本件隠匿物が金塊であるという認識が、未必的なものであるとすれば、覚せい剤等であるかもしれないという未必的認識とは必ずしも互いに排斥し合うものではなく、併存し得ることは、論理上明らかであるとしました。
金塊という点で、覚せい剤の未必的認識を消すには、被告人において、本件隠匿物が金塊であると信じ込んだといえる事情が必要としました。
被告人は、香港という世界有数の大都市で生育し、相応の教育も受け、就労するなど通常の社会生活を送っていた者であり、その知的能力等に問題があるともうかがわれず、先に検討した本件隠匿物の運搬に関する客観的な諸事情を認識していたのであるから、本件隠匿物が、覚せい剤等である可能性を全く想起できなかったということは考え難いし、金塊だと言われて、他に何の根拠もないのに、金塊だと信じ込んだということも考え難いとし、有罪判決としました。
金塊と告げられた状況
中身が金塊だと信じ込んだ事情の有無について検討する際、被告人が告げられた状況も指摘しています。
あえて会う直前にわざわざトークアプリを通じて「金塊」との履歴を残していることに加え、比較的換金の容易な「金塊」であると告げることで、被告人に本件スーツケースを持ち逃げされるリスクもあったことも併せれば、被告人が、本件隠匿物が金塊であると認識していたことを裏付けるための偽装工作である可能性が高いと指摘。
被告人がそれを何の疑問もなく信じ込んだというのも、あまりに安易であるとして、弁護人の主張を排斥しています。
故意とは?
犯罪が成立するのに必要な故意は未必のものでも良いとされます。
故意の成立に必要な事実の認識は、概括的なものでも良いものです。
そのため、対象物の認識として、覚せい剤を含む違法薬物かもしれないというレベルでも犯罪は成立することになります。
これに対し、金塊だという認識があっても、それが覚せい剤かもしれないという可能性を打ち消すものになっていないと、覚せい剤の認識と両立することになります。
金塊かも、覚せい剤かもという認識は両立するのです。
そこで、被告人が金塊だと信じ込んだというレベルまで認められる必要があります。
本件では、被告人の経歴や知的能力から、ただ金塊だといわれて、ほかに何の根拠もないのに、違法薬物だとする疑念
はすべて消え去ったとは認められないとしました。
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