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よくある質問(FAQ)

 

警察を騙すと偽計業務妨害罪になる?

 

ユーチューバーが警察を騙して偽計業務妨害罪になった事例があります。


名古屋高裁金沢支部平成30年10月30日判決です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.29

 

事案の概要

被告人は、ユーチューバーでした。

警察署交番前の歩道上で、交番に勤務中の警部補の面前で、覚せい剤様に偽装した白色粉末が入ったチャック付きポリ袋を、着用していたズボンのポケットから故意に落としました。

すぐに、これを拾って逃走し、警部補に対し、違法薬物を所持した犯人が逃走したものと誤信させました。

警部補は、被告人を追跡。

警部補からの無線連絡があり、発せられた指令等で、その後3時間以上、28名の警察職員が現場への臨場、被告人の警察署への任意同行、取調べ等をしました。

覚醒剤ではなかったので、警察の動きは徒労でした。

このような被告人の行為がなければ、刑事当直警らの活動、交番勤務等の業務がされていたところ、被告人の行為によって、これらの業務の遂行を困難にさせたとして、刑法233条所定の偽計業務妨害罪によって起訴されました。

 

再生回数稼ぎの愉快犯のような犯行ですね。

 

原審の判断

一審では、弁護人より、被告人により妨害された警部補らの活動は覚せい剤取締という権力的公務で、刑法233条の「業務」に含まれないとの法的主張がされました。

また、被告人の行為がなければ遂行されていたはずと主張されている業務の遂行は、上記権力的公務の妨害の反射効に過ぎないとの主張もされました。

 

裁判所は、本件妨害行為は実際に強制力を行使することにより排除することは不可能であって、それによりこれに対応する徒労の業務を余儀なくされることから、本来遂行されていたはずの刑事当直等の公務は、本罪にいう業務に当たる
として本罪の成立を認めました。

罰金40万円の刑を言い渡し。

これに対し、被告人側が控訴。

 

裁判所の判断

結論として、控訴棄却。なお、その後、上告もしていますが、上告も棄却。

裁判所は以下の事実を認定しました。

 

犯行に至る経緯

被告人は、平成28年頃から動画共有サービスのユーチューブに自作の動画を投稿し、再生回数に応じて支払われる広告収入を得ようなどと考えていたが、投稿した動画の再生回数等は低迷。


そこで、被告人は、平成29年8月23日ないし翌24日頃、覚せい剤に見せかけたグラニュー糖入りのポリ袋を通行人の前で落とし、さらには警察官の前で落としてわざと逃走し、その者らの反応を撮影したいたずら動画を投稿することを思い付き、妻を説得して、撮影役を引き受けさせました。


被告人は、グラニュー糖入りのポリ袋数袋や動画撮影用のデジタルカメラ等を用意したほか、両腕に入れた入れ墨があえて見えるよう黒色タンクトップを着るなどして不審者を装い、8月26日昼頃からJR駅周辺で、妻と連絡を取り合いながら、ポリ袋を通行人の前で落とすなどの行為を繰り返し、その様子を撮影させたが、思うような状況を撮ることができませんでした。


次いで、被告人は、たまたま開催されていた警察広報展を見掛け、付近にいた制服警察官の前でポリ袋を落とし、その様子を撮影させたが、落とし物を指摘されただけで終わりました。

その後、そのまま続けることは諦め、着替えた後、酔った振りをしながら展示されていたパトカーに乗り込み、クラクションを鳴らすなどした様子を妻に撮影させました。

 

被告人は、この映像を確認し、思ったような様子が撮れたことから、再度警察官の前でポリ袋を落として逃げ出し、その様子を撮影しようと考え、タンクトップ等に着替え、妻に撮影方法や被告人宛に電話をかけるきっかけ等を指示した上、午後3時58分頃、本件交番を訪れました。

 

犯行態様

被告人は、対応に当たった臨時相談員に地理案内を求める振りをし、打合せどおり妻からかかってきた電話に応じて、ポケットから携帯電話機を取り出すとともにポリ袋1個を歩道上に落としました。


本件交番内で別件対応中であった警部補は、被告人が本件ポリ袋を落とした様子を現認し、その形状等から覚せい剤事犯の容疑があると考えて、職務質問等を行おうと外に出たところ、午後3時59分頃、被告人が同ポリ袋を拾い上げると同時に全力で走り出したため、その後を追いました。


被告人は、警部補の制止の警告に従わず逃走を続けたが、妻の撮影範囲を越えた辺りで走るのをやめ、午後4時頃、同警部補が被告人を確保。

被告人は、警部補の求めに応じて本件ポリ袋をポケットから出し、その中身を尋ねられると、「砂糖、砂糖」と笑いながら答えるなどしました。


その後、被告人は、現場に臨場したパトカー内で職務質問を受け、本件ポリ袋の中身の検査に応じて、覚せい剤予備試験試薬による予試験が行われたが、結果は陰性。

そして、被告人は、同行された福井署で取調べを受け、尿を任意提出したが、その予試験では違法薬物の陽性反応は現れず、午後7時25分、被告人の身柄が妻に引き渡されました。

 

警察の被害

本件行為等の結果、被告人を被疑者とする覚せい剤所持の事案が認知され、被告人に対する職務質問等のため、福井署当直員の警察官11名、警部補ら本件交番を含む交番勤務の警察官8名並びに福井県警察本部所属の警察官8名及び警察職員1名が被告人の逃走現場に臨場するなどして職務に従事。

これらの警察職員は、この間、刑事当直、警ら活動、交番勤務等当時従事すべきであった業務を行うことができませんでした。

 

被告人の動画公開

被告人は、前記動画の一部に、グラニュー糖、被告人の服装、注射器や薬物乱用による注射痕等の映像等を加えて編集した4分弱の動画を作成し、8月29日頃ユーチューブに投稿。

その後これが大きく報道されたため、9月6日ないし翌7日頃、動画を非公開とし、同月8日、本件により逮捕。

 

偽計は明らか

まず、被告人の本件行為は、覚せい剤の所持者が逃走を図ったものと警察官を誤信させるのに十分であり、これが偽計に当たることは明らかといえるとしています。

また、警部補らの警察官としては、本件行為を現認しただけでは、これが薬物所持を仮装したものかどうかを直ちに判断することができず、逃走を図ったとみられる被告人を確保し、職務質問を始めとする覚せい剤所持容疑の解明に向けた所要の業務を行う必要があったといえ、そのために、本署への連絡や応援要請を通じ、現場の臨場、被告人に対する職務質問、任意同行や取調べ等を余儀なくされた結果、本件行為がなければ遂行されたはずの関係警察職員の本来の職務が妨害されたことも、また明らかに認められるとしています。

 

偽計業務妨害の対象になる公務

そして、強制力を行使する権力的公務に当たらないものは、公務であっても業務妨害罪の対象となると解するのが相当であるところ、本件業務は、同罪の対象となるべきものといえるし、同業務中に警察官がその遂行の一環として強制力の行使が想定される場合が含まれるとしても、本件行為が行われた時点では、そもそも、その強制力を同行為に対して行使し得るはずはなく、その偽計性を排除しようにもそのすべはないことになるとしています。


そうすると、本件業務は、偽計業務妨害罪における「業務」に当たると解するのが相当であり、本件行為によって同業務を妨害した被告人には、同罪の成立を認めることができるとしました。


被告人の主張を排斥

被告人の主張については、

被告人に対する警察官の一連の対応は、警察の通常業務であり、かつ、覚せい剤事犯の取締りという権力的公務であるから、偽計業務妨害罪の「業務」に当たらないのに、同罪の成立を認めた原判決には、罪刑法定主義に反する拡大解釈をした違法がある、

被告人に偽計業務妨害罪が成立するとしても、その範囲は、本件ポリ袋の中身の予試験結果が陰性を示した時点までとすべきである、

本件業務は、覚せい剤事犯の取締りという強制力を伴う権力的公務と表裏一体のものといえ、その全部が権力的公務と評価されるべきであるし、単に可能であったといえるだけであるのに本件業務を業務妨害罪の対象とすると、処罰範囲が無限に広がることになる、

本件行為は覚せい剤の怖さの啓発を目的とする動画撮影のためのものであり、表現行為として違法性が阻却される、

偽計による公務の妨害行為に対しては、軽犯罪法1条31号(他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者)又は同条16号(虚構の犯罪を公務員に申し出た者)に当たるとして処罰されることはあっても、偽計業務妨害罪の適用の余地はない

などと位置づけました。


そのうえで、原判決が認定した偽計業務妨害の対象業務は、飽くまで、被告人の本件行為がなければ遂行されたはずの警察職員の刑事当直等の業務であり、逃走現場への臨場や被告人の任意同行、取調べ等の本件捜査(原判決のいう「徒労の業務」。これは、正に犯罪捜査を見込んだ強制力を行使する権力的公務に当たるというべきである。)ではないことは、「犯罪事実」の記載や理由中の説示から読み取ることができるとしています。

確かに、本件捜査が行われたことで、関係する警察職員の本件業務の遂行が妨害されたのであり、両者は表裏一体の関係にあるとみることはできるとしつつ、しかし、本件捜査が強制力を行使する権力的公務に当たるからといって、これと性質を異にする本件業務が同種の公務性を帯びる訳ではないし、同業務の範囲は記録上明らかになっていると指摘。

また、業務妨害罪における「業務」とは、現実に執行している業務にとどまらず、その業務を行う者が遂行すべき業務も含むものと解するのが相当であるから、本件捜査を行わなければ遂行していたはずであった警察職員の職務を除外すべき理由はないとしました。

 

被告人が本件行為を行った目的は、視聴者の関心をひくような特異な動画を作成、投稿して、ユーチューブにおける再生回数等の増加を見込むことにあり、専ら私益のためのものであることは明らかであると指摘。

また、態様についても、相応の準備をした上、本件行為に至るまで撮影等を繰り返し、実際、警察職員の業務遂行に看過し難い支障を生じさせた、悪質なものというべきであり、被告人が実際に投稿した動画内容に照らしても、覚せい剤の害悪を啓蒙するための表現活動とは到底みることができないとしました。

そして、本件行為は、単なる悪ふざけの域を超えており、その目的及び態様に照らしても違法性は高いというべきであるから、補充規定である軽犯罪法によるではなく、偽計業務妨害罪を適用した原判決の判断は相当であるとして、被告人の主張を排斥しました。

 

 

 

公務の妨害と業務妨害罪の成立

本件は、覚せい剤所持の偽装をするという愉快犯ともいえる事例。

これに対応するための徒労の活動を行わせたというものです。

企業等にこのような行為をすれば、偽計業務妨害罪が成立します。

 

しかし、今回は相手が警察。公務員。ここが問題となりました。

公務に対する妨害行為については、公務執行妨害罪があります。

刑法95条です。

公務執行妨害罪では、規制される手段は、暴行・脅迫に限られています。

偽計や威力を手段する業務妨害罪とは、どのような関係になるのか問題になります。

この点については、考え方が大きく分かれていますが、判例の立場は、公務も「業務」なるとして業務妨害罪が成立するとしつつ、権力的性格を有する公務については業務から除外するとしています。

権力的公務に当たるか否かは、強制力の行使があるかどうかを基準とするとされます。

そこで、本件でも強制力が問題になっています。

本判決は、実際に行われた徒労の公務に従事したことによって、本来であれば行われていたはずの刑事当直・警ら活動・交番勤務等の遂行ができなくなったとして、業務妨害罪を認定しています。

 

 

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