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よくある質問(FAQ)

 

財産以外の嘘と詐欺未遂罪の関係は?

特殊詐欺で、詐欺未遂罪の成立が問題になった事例があります。

嘘をついたものの、財物交付を直接的に求めるものではなかったので、詐欺罪の未遂が成立するのか?問題になったというわけです。

 

最高裁判所平成30年3月22日第1小法廷判決の紹介です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.29

 

事案の概要

被告人は特殊詐欺グループの一人。

被害者は69歳。前日にも別件詐欺の被害を受けていました。甥になりすました者に、仕事の関係で現金を至急必要としている旨嘘を言われて、会社の系列社員になりすました者に、現金100万円を交付してしまっていたのです。

 

特殊詐欺グループでは、電話で警察官になりすまして被害者に複数回の連絡。同じ人から何度もだまし取ろうとしたわけです。

「昨日、駅の所で、不審な男を捕まえたんですが、その犯人があなたの名前を言っています。」

「昨日、詐欺の被害に遭っていないですか。」

「口座にはまだどのくらいの金額が残っているんですか。」

「銀行に今すぐ行って全部下ろした方がいいですよ。」

「前日の100万円を取り返すので協力してほしい。」

「僕、向かいますから。」「2時前には到着できるよう僕の方で態勢整えますので。」

などと嘘を言いました。

 

これを受けた被害者は、預金を下ろして現金化。

しかし、被害者に現金交付を求める前に嘘が発覚。

警察官になりすました現金受取役の被告人が、被害者方付近で警戒中の警察官に発見されて逮捕。

詐欺未遂として起訴されたという流れです。

 

高等裁判所までの流れ

第1審では、被告人は、事実関係も法律問題も争いませんでした。

詐欺未遂罪により、懲役2年4月の実刑判決。

被告人は量刑不当だと控訴。

 

高等裁判所では、職権で無罪判決が出ました。

共犯者らが被害者に述べた嘘は、被害者に対し、現金交付まで求めるものではないので、その行為は、詐欺罪の人を欺く行為とはならない、詐欺被害の現実的・具体的な危険を発生させる行為とも認められないとして、1審判決には理由不備の違法があるとして破棄して、無罪としたものです。

刑法246条1項にいう人を欺く行為とは、財物の交付に向けて人を錯誤に陥らせる行為をいうとしています。

検察官が上告。

 

本件では、共犯者を含む被告人らのグループは、被害者に対して現金交付を求める文言を述べていませんでした。

そうすると、詐欺罪の「欺く行為」にはならないのではないか、未遂に必要な実行の着手がまだだったのではないかが争点となるのです。

 

最高裁判所の判断

原判決を破棄。
本件控訴を棄却。

原審における未決勾留日数中120日を本刑に算入。

ということで、地裁の有罪判決を指示する結論でした。

原判決は、刑訴法411条1号により破棄を免れないとしています。

 

詐欺罪の実行の着手の有無


本件における、各文言は、警察官を装って被害者に対して直接述べられたものであって、預金を下ろして現金化する必要があるとの嘘(1回目の電話)、前日の詐欺の被害金を取り戻すためには被害者が警察に協力する必要があるとの嘘(1回目の電話)、これから間もなく警察官が被害者宅を訪問するとの嘘(2回目の電話)を含んでいます。

これらの嘘を述べた行為は、被害者をして、本件嘘が真実であると誤信させることによって、あらかじめ現金を被害者宅に移動させた上で、後に被害者宅を訪問して警察官を装って現金の交付を求める予定であった被告人に対して現金を交付させるための計画の一環として行われたものであり、本件嘘の内容は、その犯行計画上、被害者が現金を交付するか否かを判断する前提となるよう予定された事項に係る重要なものであったと認められるとしています。

このように段階を踏んで嘘を重ねながら現金を交付させるための犯行計画の下において述べられた本件嘘には、預金口座から現金を下ろして被害者宅に移動させることを求める趣旨の文言や、間もなく警察官が被害者宅を訪問することを予告する文言といった、被害者に現金の交付を求める行為に直接つながる嘘が含まれており、既に100万円の詐欺被害に遭っていた被害者に対し、本件嘘を真実であると誤信させることは、被害者において、間もなく被害者宅を訪問しようとしていた被告人の求めに応じて即座に現金を交付してしまう危険性を著しく高めるものといえます。

このような事実関係の下においては、本件嘘を一連のものとして被害者に対して述べた段階において、被害者に現金の交付を求める文言を述べていないとしても、詐欺罪の実行の着手があったと認められるとしました。


第1審判決が犯罪事実のとおりの事実を認定して詐欺未遂罪の成立を認めたことは正当と結論づけています。

 

裁判官山口厚の補足意見

理論的な話が補足意見でされています。

詐欺の実行行為である「人を欺く行為」が認められるためには、財物等を交付させる目的で、交付の判断の基礎となる重要な事項について欺くことが必要。

詐欺未遂罪はこのような「人を欺く行為」に着手すれば成立し得るが、そうでなければ成立し得ないわけではないとのこと。

従来の当審判例によれば、犯罪の実行行為自体ではなくとも、実行行為に密接であって、被害を生じさせる客観的な危険性が認められる行為に着手することによっても未遂罪は成立し得るのであるとしています。

したがって、財物の交付を求める行為が行われていないということは、詐欺の実行行為である「人を欺く行為」自体への着手がいまだ認められないとはいえても、詐欺未遂罪が成立しないということを必ずしも意味するものではないとのこと。

未遂罪の成否において問題となるのは、実行行為に「密接」で「客観的な危険性」が認められる行為への着手が認められるかであり、この判断に当たっては「密接」性と「客観的な危険性」とを、相互に関連させながらも、それらが重畳的に求められている趣旨を踏まえて検討することが必要。

特に重要なのは、無限定な未遂罪処罰を避け、処罰範囲を適切かつ明確に画定するという観点から、上記「密接」性を判断することであるとしています。


本件では、段階的な行為の一つであり、密接性はありそう。最高裁の判決では、これを認定していたとの論理です。

 

詐欺未遂罪

振込め詐欺がなくならない社会情勢からすると、処罰の必要性は強いといえます。

そうであれば、実行行為の着手時期を広く解釈する方が良いという考えとなります。

しかし、刑法は、解釈をあいまいにすると、警察、検察の濫用が危惧されます。一定の限定は必要でしょう。

高等裁判所では「欺く行為」を限定的にとらえ、実行行為の着手を否定したことから、被告人も驚きの無罪判決となりましたが、必ずしも「欺く行為」と実行行為の着手時期は一致していなくても良い。密接性があれば良いとの解釈です。

いろいろな事件で、「詐欺罪で刑事告訴したい」という声はあるのですが、刑法の詐欺罪は財物交付に向けた行為が必要と説明することが多いです。

この判決は、おそらく特殊詐欺対策が必要な社会情勢も考慮されたもので、一般のやりとりで、財物交付に無関係なダマシ行為が詐欺罪になるというものではありません。

少なくとも密接性が必要とはされておりますので、ご注意ください。

 

 

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